色からのメッセージ 色と文化

色と文化──色はその国の“心の風景”

色は世界共通のものに見えて、実は文化ごとに意味や感じ方がまったく異なるものです。同じ赤でも、ある国では「お祝いの色」とされ、別の国では「危険や禁止」を意味する――そんなふうに、色はその土地の歴史や宗教、気候、価値観と深く結びつき、人々の心に根を下ろしています。

たとえば「白」という色。日本では清潔や神聖、あるいは死を象徴する色として広く知られています。神社の神主の装束や、葬儀の白装束がその代表です。しかし、インドでは白は未亡人が身にまとう喪の色であり、西洋では結婚式の花嫁衣装の象徴として“純潔”や“始まり”を意味します。同じ色であっても、背景によってこれほど意味が変わるのです。

「赤」はどうでしょうか。日本や中国では、赤はめでたさや生命力の象徴とされ、還暦や婚礼などの祝い事に欠かせない色です。これは古代から赤が“太陽”や“血”と結びつき、生きる力を感じさせたからだといわれています。中国の正月や結婚式では、真っ赤な装飾が街を彩ります。一方、西洋では赤は「危険」「禁止」「怒り」などの強い感情とも結びついており、信号の“赤=止まれ”もその表れです。

また、色の意味には宗教や思想も大きく影響しています。キリスト教では紫は“高貴”で“神聖な色”として聖職者の衣に用いられてきましたが、日本の平安時代にも紫は最も位が高い人しか使えない“高貴な色”とされていました。このように、異なる文化でも、色に対して似たような感覚をもつこともあります。

日本は、自然の色と深くつながった文化をもっています。四季の移ろいを大切にし、桜の薄紅、紅葉の朱、空や海の青など、自然の中にある色に名前をつけて楽しんできました。江戸時代には「藍色」や「江戸紫」「唐茶(からちゃ)」など、庶民の間でもさまざまな色が生み出され、季節や身分、町人文化の成熟とともに色のバリエーションが広がりました。


このような「文化としての色」は、単に美しさを楽しむものではなく、「誰が、いつ、どこで、どんな気持ちで使うか」という文脈のあるメッセージなのです。言い換えれば、色は無言のコミュニケーションの手段であり、時に言葉以上に強い意味を持ちます。

日本文化では白は「清らか」「無垢」「少し距離のある印象」などが連想されるかもしれません。一方、欧米的な価値観を持つ人にとっては、「純粋」「始まり」「希望」といった意味で受け取られる可能性があります。

声や色は、国籍や言語を超えて伝わる“感覚の言葉”です。しかし、それをどう受け止めるかは、文化というフィルターを通して決まります、色そのものだけでなく、「その色がどう“読まれている”か」に敏感になることが必要です。

色は、その文化の心の風景です。人が育った環境、信じている価値観、そして日々の暮らしの中に、色は静かに息づいています。私たちは色を通じて、その人の背景や世界の多様性に、そっと寄り添うことができるのです。