『教皇選挙』荘厳でゴージャスな色彩表現と「多様性」に満ちた映画

アナウンサー、色彩&音声アドバイザーの大平雅美です。
『教皇選挙』
この礼拝堂で行われる〈コンクラーベ〉に完全没入する120分

今年最も心を揺さぶられる映画になりそうです。

映画館でぜひ観たい映画です!
まるでノンフィクションを見ているよう、あるいは自分がその場にいる没入感を味わえます。
今年度、私の中で最高の映画かも!崇高なる教会の想像を絶する結末。
心に迫りくる音楽、美しく荘厳な美術、緻密な脚本、迫真の演技、私の中ではどれをとっても最高峰のポリティカルミステリーです。まるで自分が聖堂にいるかのような錯覚に陥ります。
展開による展開、そして息を飲む結末。想像をはるかに超え期待を上回り続ける映画です。

「コンクラーベ」という極めて有名な伝統選挙を描きながら、世界で今起こっている様々な出来事が、閉ざされたシスティーナ礼拝堂で次々に発覚。世俗と欲、男女問題、お金、テロの影響など聖職者だろうが関係ありません。

そして最大のポイントは「多様性への自らの立ち位置」です。この映画は観客も没入して、自らの思いを考えさせられる映画でもあると思います。

伝統と革新、過去と未来、男と女、分断と融合、無垢と無知、寛容と拒絶、野心と奔放など、様々なは対極を描きながら、しかしあからさまではなく、誰もが揺れ動きながら結末に進んでいく。

そして何回か膝を打つ、あるいは立ち上がり拍手したいシーンに出くわします。
往年の女優、イザベラ・ロッセリーニ。誰の味方か全く分かりませんでしたが、これはご覧になってのお楽しみ。

また主演のレイフ・ファインズのリアリティがすごいです。気品と威厳ある佇まいの中の苦悩。みなさんよくご存知の『ハリーポッター』シリーズのヴォルデモート卿、あるいはもっと前だと『シンドラーのリスト』のナチス将校のアーモン・ゲートです。

映画美術も見応えがあります。この映画において色彩は重要な意味があります。
◎緋色
教皇選挙に臨む枢機卿たち全員が着用する赤い(緋色)は、彼らが「血の証人」であることを示しています。この赤と言っても深い重厚な赤は選挙の厳粛さの象徴でもあります。ローレンスが正式な僧衣に着替えているシーンだけでも続々します。
監督インタビューより
実際の法衣は少しオレンジがかった色で軽い生地だそうです。映画では重厚で深みのある赤に変更されています。
赤から着替えた日常は黒い僧衣です。後期さや厳粛さを表すと同時に、人間の葛藤や嫉妬、困惑、失望など様々な感情が読み取れます。
◎赤と黒の対比
正式と日常、建前と本音、荘厳と不気味さ、高揚と緊張など緋色の衣服と黒の衣服の対比はより一層物語に深みを与えます
◎白
潔癖や正当、純粋、無垢、無知などの象徴です。
雨の日の緋色の僧衣と白い傘のシーンが美しすぎで目がくらみそうでした。
このように色彩は単なるツールではなく、人物の心理描写や物語の展開をイメージさせる重要な役割があります。
見事な色彩設計に心が奪われるばかりです。
最高にゴージャスであり、刺激的な展開、「映画館で見て良かった」と心の底から思う映画です。
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『教皇選挙』
第95回アカデミー賞で国際長編映画賞ほか4部門を受賞した「西部戦線異状なし」のエドワード・ベルガー監督が、ローマ教皇選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー。
全世界14億人以上の信徒を誇るキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者ローマ教皇が亡くなった。「コンクラーベ」に世界中から100人を選んで密室選挙が始まる。
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