【色彩術】『となりのトトロ』の緑と茶色

郷愁を呼び起こす色彩『となりのトトロ』の緑と茶色

となりのトトロ
© 1988 Studio Ghibli

スタジオジブリ公式サイトより画像引用

世界中のアニメーターから「ジブリ作品はbeautiful」と賞賛されています。
CGアニメーションではこうした感情表現を使われることは少ないそうですが、なぜ特別な美しさを感じるかの理由のひとつは、ジブリの
絵画性と色使いにあります。

例えば、『となりのトトロ』の森の木々の背景は、薄い緑と濃い緑です。
色数としてはシンプルに描かれている場面も多いですが、「監督はここで何を観客に見せたいのか」を考えると、同じ木々の中でも神木だけが緻密に描かれているということがあるそうです。つまり、背景にも手を抜かずに、絵に真実性と緩急をつけるということです。

 

『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』のプロデューサーを務めた西村義明氏は、インタビューで次のように答えています。

「高畑、宮崎両監督は『カメラのレンズを通すな」を大事にしている。

カメラのレンズは一眼ですが、人間は複眼です。
つまり人間が見たものとレンズを通した画は違うということ。

「ジブリが作ってきた世界は、空間の作り方や奥行、遠近などが独特です。自分たちの目を通したら世の中はこう見えている、それを描くのがジブリの背景でした」

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トトロやもののけの森を描いたジブリの美術で有名な男鹿和雄さんの逸話では、男鹿さんが背景を描いていて、筆が滑って端がにじんでしまったことがあったそうですが、宮崎監督からはそこを指さして「ここが素晴らしい。面白いよ」と褒められたそうです。

「デジタルやCGは誤解を恐れずにいえば『意識の領域』で正しく崩れない。手書きは精神状態も影響するので、ゆらぎや偶発性が生まれる。そこが魅力であり、意識を超える力、『無意識の領域』の面白さだと思う」と西村プロデューサーは語っています。

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 デジタルとアナログに優劣はありません。
ジブリもディズニーも一旦デジタルに移行したかと思われましたが、『崖の上のポニョ』(2008)や『プリンセスと魔法のキス』(2009)は、手書きで制作されています。

ディズニーは2021年12月に手書き2Dアニメーターの研修生募集をしていることでも分かるように手書きの良さを忘れているわけではありません。しかし世界の潮流は3DCGですが、日本では興味深いことに2Dと3DCGを組み合わせたハイブリットな画面作りが主流になっています。

 

 さてここからは『となりのトトロ』の色彩を見ていきましょう。
まず大人はもちろん、自分が子どもの子どもまでが「懐かしい」という言葉を発するほど、柔らかく温かい思いに溢れ、癒されます。
その理由のひとつに、トレース線(輪郭線)があると考えています。それまでの作品のトレース線はほぼ黒で描かれていましたが、トトロのトレース線は茶色なのです。

 

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いかがでしょうか?
こうして茶色を使うことで、人物にも風景にもなじみ、温かく画面に溶け込みます。まさに日本の原風景が記憶の中のままによみがえるのです。

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今では考えられないことですが、この作品の公開は、宮崎駿監督『となりのトトロ』と高畑功監督『火垂るの墓』2作が同時劇場公開でした。

この時の大変さを両方の色彩設計を担当した保田道代さんは語っていますが、同時だったおかげで生まれたのが、このトレース線の茶色です。『火垂るの墓』は廃墟のような焼野原ですから、色がない方が良い、『となりのトトロ』の方も今までより優しさのある柔らかい色がいいということで、保田さんならではの発想で決めました。

 

それ以前から赤茶色のカーボンで作るトレース線はあったそうですが、発色が強すぎたためにここでは使えませんでした。そのため独自の茶色カーボンを作るために試作には3か月かかったそうですが、「茶色に緑を加えた新しい茶色」が採用されました。

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『となりのトトロ』の全体的な色彩は宮崎監督の好みもあって、クリアで明るく元気な色です。
そこに大きく広がる森の木々や田んぼの緑が、私たちの心に郷愁となって迫ってきますが、トレース線の輪郭が黒だったならば、また違った印象になったことでしょう。


緑みの茶色のトレース線が風景になじむことで、寄り一層、私たちの目で実際に見ている景色に近づいたのは言うまでもありません。

 

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◆緑 green 緑に惹かれる人 調和と成長の色
〇キーワード
成長・調和・自然・リラックス・バランス(家族・安全・安定・素直・真実・ハート・マイペース)
嫉妬・優柔不断・普通・偏り・常識(枠をはみ出せない・保守的・引っ込み思案・平凡)

♡休息と安心感でコツコツ成長する色

壁紙 森の木々の緑の楽園 2560x1600 HD 無料のデスクトップの ...

ではちょっと視点を変えて、緑はどのような効果があるか!
私たちの生活と照らし合わせて
「緑力」をみてみましょう。

「緑視率」という言葉があるのを知っていますか?
※「緑視率」とは、街を眺めた時に、視界に占める緑の割合を指す。

 

「緑」の効用として第一は生物の多様性を維持し、生命基盤を守るという最も大きな働きがあります。
光合成の作用によって大気の浄化やCO2を固定します。また気象緩和機能もありますから、暑い夏でも木陰にいくと涼しさを感じられますね。

『となりのトトロ』を見ていると、すっと風が通り抜けるような感覚になるのはこのためです。
このように「緑」には生態系を維持し、環境に作用し、人々の心理面に様々に働きかけます。


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さらにサツキとメイの洋服が明るい暖色ですが、これは二人の性質を色がよく表し、緑の中で主人公が生き生きと動きとても映えます。

しかし全体のトーンとしては「緑」ですから、画面を見ているだけで、
心の鎮静、鎮痛、緊張緩和、ストレスの軽減、森林浴による解毒や殺菌作用、また目を休めるアイレストの効果もあるのではないでしょうか。

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こうした「緑」の効果が画面いっぱいに十二分に表現されていますので、この作品は都内に居ながらにして、里山風景や田舎の景色がまるで自分も行ったことがあるリアルのように感じさせてくれます。

ここにトトロというフワフワの変な生き物が登場することで、忘れていた子どものころの純粋さや遊びの体験が呼び起こされ、浄化と共にワクワクとした無垢な気持ちをよみがえらせてくれるのです。

まさに「緑」と「茶色」の色彩のチカラでもあるのです。

 

 

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